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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 抜けるような蒼空が頭上一杯にひろがっている。そろそろ六月に入り、ささやかな庭の片隅に植わった紫陽花がうっすらと紫に色づき始めた。元々、香花たちがここの家を借り受ける前から、同じ場所にあったものだ。
 紫陽花を見ると、今まではよく明善を思い出していたけれど、この頃では、その回数も減った。
 明善を忘れたわけではない。いや、多分、明善を忘れることなど、一生涯できはしないだろう。
 だが、いつまでも過去に縛られていても意味がない。香花はやっと気付いたのだ。明善との想い出を大切にするのと、前を―未来を見つめて生きてゆくこととは全く別なのだと。
 そして、その大切なことに気付かせてくれたのが光王その人だった。
 想い出は想い出として大切にしながらも、香花はこれからは過去に必要以上に浸りすぎたりはせず、先を見据えて進んでゆくつもりだ。

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