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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

 だが、全国を流れ、あちこちの町や村で芸を披露して生きてゆくのが旅の辻芸人の宿命なのだ。香花が景福を引き止めることはできない。
「これでも予定より大分長くいたからね。そろそろ発たないと」
 昌福の一件の後、景福はどこか大人びた。―と言えば聞こえは良いのだろうが、屈託ない明るさの代わりに、微妙な翳りがその顔に落ちるようになった。
「気をつけてね。もし、また近くに来ることがあったら、必ず顔を見せて」
 香花の言葉に、景福は笑って頷いた。
「色々とありがとう。香花にも光王にも本当に世話になった。光王にもよろしくって伝えて」
 景福はそう言うと、自分の首にかけていた首飾り―例の翡翠の首飾りを外した。
「これ―、良かったら、貰って欲しいんだ」
 香花が〝え〟と声を上げて景福を見つめる。

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