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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第13章 十六夜の悲劇

「―」
 漸く意味を解し、頬を染めた香花に、景福が片眼を瞑る。
「でも、そのことは気にしないで。香花には光王がいるのは知ってるさ。光王ほどの大人の男に、僕なんか子どもが勝てるはずがない。でも、良いんだ。自己満足かもしれないけど、香花がこれを持っていてくれるだけで、僕は幸せだから」
「景福、光王は私の兄―」
 言いかけた香花の唇にそっと景福の指が当たった。
「それ以上は言わないで。光王が香花の兄さんじゃないことくらい、僕にだって判るよ。傍で見てれば、二人が想い人同士だってことなんて、すぐ判ったもの」
 香花の唇から、景福の指が離れた。
「じゃあ、元気でね。香花」
「景福も―、元気で」
 景福は香花の手に翡翠の首飾りを握らせると、そのまま勢いよく駆け出した。 
 柵についた戸を開け、飛び出してゆく景福の姿は見る間に遠ざかってゆく。

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