月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人
その期待を裏切らず、素花(ソファ)はすくすくと育った。十歳を過ぎる頃から、ゆく末を偲ばせるほどの美少女で、早くも縁談がひきもきらない有様であった。美しいだけではなく聡明でもあり、まさに申し分のない娘になった。
良人が娘を溺愛しすぎたせいで、素花は嫁がぬまま十八歳の春を迎えた。が、良人だけを責められはしない。彼女もまた、この娘をどこにも嫁がせたくないと思うほど愛していたのだ。
十八というのは早婚の当時としては、むしろ遅すぎる年齢ではあったが、それでも〝ユン家の素花〟といえば、誰もが知る名花であり、素花を妻に望む両班家は星の数ほどもあった。
―そろそろ素花の嫁ぎ先を本気で考えねばならぬな。
良人がそんなことを言い出した矢先、考えてもみなかった不幸が一家を見舞うことになる。
生まれからというもの、風邪らしい風邪も引いたことのない素花が突如として倒れたのだ。原因は心臓発作。とりたてて心臓に欠陥があったわけでもない素花の若い肉体を突然襲った病魔であった。
医者の診立てでは、殆ど即死に近い状態だった。最初の発作で素花の心臓は止まってしまったのだ―。
良人が娘を溺愛しすぎたせいで、素花は嫁がぬまま十八歳の春を迎えた。が、良人だけを責められはしない。彼女もまた、この娘をどこにも嫁がせたくないと思うほど愛していたのだ。
十八というのは早婚の当時としては、むしろ遅すぎる年齢ではあったが、それでも〝ユン家の素花〟といえば、誰もが知る名花であり、素花を妻に望む両班家は星の数ほどもあった。
―そろそろ素花の嫁ぎ先を本気で考えねばならぬな。
良人がそんなことを言い出した矢先、考えてもみなかった不幸が一家を見舞うことになる。
生まれからというもの、風邪らしい風邪も引いたことのない素花が突如として倒れたのだ。原因は心臓発作。とりたてて心臓に欠陥があったわけでもない素花の若い肉体を突然襲った病魔であった。
医者の診立てでは、殆ど即死に近い状態だった。最初の発作で素花の心臓は止まってしまったのだ―。