月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人
親子三人で和やかにいつもどおりの夕餉の膳を囲んでいた最中、素花は帰らぬ人となった。十八歳の誕生日を迎えてから十日後のことだ。
最愛の娘が逝って以来、彼女は笑うことを止めた。自分の周囲の世界がすべて色を失った灰色に見え、何を見ても聞いても、心が動かなくなった。妻を案じた良人は面白い芝居の一座があると聞けば、屋敷まで呼び止せて彼女に見せ、珍しい果物が手に入れば、真っ先に彼女に食べさせた。
だが。何を食べても、まるで砂を噛んでいるように味気ない。朝鮮一と呼び声の高い一座の芝居を見ても、どこか面白いのか皆目判らない。
ああ、素花。どうして、私を一人置いて、旅立ってしまったの?
こんな老いた老婆が生き存え、まだ花の若さのあなたが死ななければならなかったのですか。私の寿命など、幾らでもあなたにあげたのに。
最愛の娘が逝って以来、彼女は笑うことを止めた。自分の周囲の世界がすべて色を失った灰色に見え、何を見ても聞いても、心が動かなくなった。妻を案じた良人は面白い芝居の一座があると聞けば、屋敷まで呼び止せて彼女に見せ、珍しい果物が手に入れば、真っ先に彼女に食べさせた。
だが。何を食べても、まるで砂を噛んでいるように味気ない。朝鮮一と呼び声の高い一座の芝居を見ても、どこか面白いのか皆目判らない。
ああ、素花。どうして、私を一人置いて、旅立ってしまったの?
こんな老いた老婆が生き存え、まだ花の若さのあなたが死ななければならなかったのですか。私の寿命など、幾らでもあなたにあげたのに。