
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人
まだ暑熱が残るねっとりとした大気のいせで、少し歩いただけで身体中のあちこちが汗ばんでくる。香花は軽い吐息を零すと、ひとたび立ち止まった。手のひらで額にうっすらと浮いた汗の雫をぬぐい、空を見上げる。白のおおく混ざった蒼空はこの季節特有の鱗雲で覆われており、残暑は厳しくとも、既に季節は夏から秋にうつろおうとしていることを物語っている。
香花は隣家の朴萬安の家に卵を届けにいった帰りであった。萬安は光王とも親しく、光王の妹だという触れ込みの香花は、萬安の一家と家族ぐるみで付き合っている。
萬安の妻タングムは五ヵ月前に初めての子を出産したばかりだ。生まれた子は男の子でオンジュンと名付けられ、すくすくと育っている。
とはいえ、村の住人は皆、その日暮らしの貧しい農民で、満足な栄養など取れるはずもない。当然、十分な乳は出ず、もう五月(いつつき)になる赤ン坊は赤児特有の福々した可愛らしさよりも、枯れ木のように痩せ細った 手脚の痛々しさが眼についた。
香花は隣家の朴萬安の家に卵を届けにいった帰りであった。萬安は光王とも親しく、光王の妹だという触れ込みの香花は、萬安の一家と家族ぐるみで付き合っている。
萬安の妻タングムは五ヵ月前に初めての子を出産したばかりだ。生まれた子は男の子でオンジュンと名付けられ、すくすくと育っている。
とはいえ、村の住人は皆、その日暮らしの貧しい農民で、満足な栄養など取れるはずもない。当然、十分な乳は出ず、もう五月(いつつき)になる赤ン坊は赤児特有の福々した可愛らしさよりも、枯れ木のように痩せ細った 手脚の痛々しさが眼についた。
