テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第14章 第4話【尹(ユン)家の娘】・夢見る老婦人

 光王はささやかな住まいの周囲に簡素な柵を設け、庭を作った。その庭に畑を作り、つがいの鶏を放し飼いにしている。お陰で、光王と香花は朝に夕に新鮮な卵を使った料理を食することができた。
 タングムが出産直後、光王は朝産んだばかりの卵を籠に盛り、わざわざ離れた隣家まで届にいったものだ。それはタングムに少しでも滋養を取って貰おうという気遣いによるものだった。萬安夫妻はそのことにいたく感激していたが、流石に出産して五ヵ月も経つというのに、いまだに無償で卵を分けて貰うのは気が引けると言って、わずかばかりだが、銭を払うようになった。
 むろん、最初、光王は萬安に〝水臭いじゃないか〟と言って、けして取り合おうとしなかった。しかし、萬安は
―幾ら友達だとはいっても、甘えられるところと甘えられないところがある。あまりに親切に甘えすぎてしまうのは、心苦しいんだ。
 と言い張って、少しで良いから銭を取ってくれと逆に懇願する始末で、光王はやむなく萬安の気の済むようにさせることにした。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ