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　老婦人は、いっとう優しい笑みを浮かべた。
「これからは門の外と言わず、中に入って好きなだけ見ると良いわ」
　老婦人は声を上げて、人を呼ぶ。
「ソンジュ、ソンジュ」
「はい(イエー)」
　ほどなく返事と共に、若い娘が現れた。女中と思しき娘は畏まって老婦人の前で頭を下げる。
「ここの薔薇を数本、切り分けなさい」
　香花に言うのとは少し違う女主人らしい鷹揚ではあるが、威厳のある態度である。
「奥さま、本当に良いのです」
　香花は少し強い語調で言った。
　愕いたのは老婦人だけではなく、女中も同様のようだ。
　香花は自らを落ち着かせるように片手を胸の辺りに当てた。
「花は地に根付いているからこそ、より美しく咲くことができます。それを無下に手折っては、哀れにございましょう。そのままにしておいてやれば、まだまだ美しい花を愉しめますが、ひとたび手折ってしまえば、花の寿命は明らかに短くなります。お願いでございます、どうか、そのままに」