月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
一緒に寝ていたはずの若い男妾は真夜中に逐電して、ゆく方知れずとなっている。が、男妾は剣も握ったこともない脆弱な少年で、両班の亡骸に残った傷跡を残せるほどの剣を使えるはずがない。両班を殺したのが男妾でないのは明白だった。
香花は知らないが、両班を殺したのは光王である。かつて光王は義賊集団〝光の王〟の頭目であると共に手練れの暗殺者でもあった。〝光王〟は何者の命も受けず、ただ己れの信念においてのみ行動する。標的は貧しい者や庶民を泣かせる、あくどい両班や豪商のみ。
丁度その事件の頃、光王と香花は、ついに互いに両想いであることを知った。漢陽で初めて光王と出逢ったその瞬間から、香花は光王に既に惹かれ始めていたことに、改めて気付いたのだ。だが、香花には崔明善という想い人がいた。明善が生きていれば、光王と恋仲になることもなかっただろう。
明善が亡くなり、光王と共に暮らすようになっても、香花はまだ自らの気持ちをごまかしていた。自分は生涯、明善の面影を抱いて生きてゆくのだと頑なに思い込んでいたのである。しかし、光王はそんな香花の心をゆっくりと解きほぐし、香花が真実の想いに気付くまで辛抱強く待ち続けた。
香花は知らないが、両班を殺したのは光王である。かつて光王は義賊集団〝光の王〟の頭目であると共に手練れの暗殺者でもあった。〝光王〟は何者の命も受けず、ただ己れの信念においてのみ行動する。標的は貧しい者や庶民を泣かせる、あくどい両班や豪商のみ。
丁度その事件の頃、光王と香花は、ついに互いに両想いであることを知った。漢陽で初めて光王と出逢ったその瞬間から、香花は光王に既に惹かれ始めていたことに、改めて気付いたのだ。だが、香花には崔明善という想い人がいた。明善が生きていれば、光王と恋仲になることもなかっただろう。
明善が亡くなり、光王と共に暮らすようになっても、香花はまだ自らの気持ちをごまかしていた。自分は生涯、明善の面影を抱いて生きてゆくのだと頑なに思い込んでいたのである。しかし、光王はそんな香花の心をゆっくりと解きほぐし、香花が真実の想いに気付くまで辛抱強く待ち続けた。