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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 光王も心に忘れ得ぬ女人の面影を抱きながらも、また香花とめぐり逢ったその日から、彼女を忘れられなっていた。
「―王、光王ってば!」
 いきなり耳許で叫ばれ、光王が思いきり顔をしかめた。
「おい、人の耳許で馬鹿みたいに大声を出すな」
 香花もまた頬を膨らませる。
「だって、光王ったら、さっきから心ここにあらずじゃない。私がウォングの話をしてるのに、ちっとも聞いてない。生返事ばかり。どうせ、町でまた美人と知り合ったんでしょ」
 香花が美少女であるのと同じく、光王もまた美男である。さらさらとした髪は肩まであるが、それを結わず、無造作に後ろで一つで括っている。その髪は陽の当たり加減では時に黄金色に輝き、普段は茶褐色の瞳は暗闇では蒼く見えることもある。
 光王の生母は妓生で、彼自身も妓房で産まれ育った。父親は都の両班で、中流貴族であったという。光王の母の許に熱心に通っていたのに、恋人が身ごもったと知るや、手のひらを返したように逃げていったのだと光王自身がやるせなさそうに話したことがあった。

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