テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 互いに慕い合っていると判ったものの、香花は今一つ、光王の真意が読めない。光王は相変わらず香花を妹のように扱うし、そんな光王に対して香花もまた一歩踏み出せないでいる。
 二人の関係は表面上は以前と何ら変わらず、相変わらず兄妹のように軽口をたたき合い、時には痴話喧嘩をする気の置けない間柄だ。
 香花にしてみれば、光王は一日中、町に出ていて留守にしているわけだし、その間、彼がどこで何をして誰と拘わっているのかまでは判らない。だから、時々、不安になるのだ。
 自分のような、さして綺麗でもなく色香もないただの子どもを光王のような大人の男が本気で愛しているのだろうか、と。
「何だ、お前。妬いてるのか?」
 光王が面白そうに言う。どこなく嬉しげに見えるのは、気のせいだろうか。
「誰が妬いてるですって? 失礼ね。相変わらず、光王の自惚れは治っていないようだわ」
 香花が軽く睨むと、光王が笑いを含んだ声音になった。
「へえ、この間、俺が町の妓房に行った夜、浮気したって腹立てたり、泣いたりしたのは誰ですかってえんだ」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ