月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
どこまでが冗談で、どこまでが本音なのか判らないのは、いつものことだ。
自分を拘束していた光王の腕という甘い檻から漸く解放され、ホッとしていたのも束の間。
「香花、眼を閉じろ」
突然命じられ、香花はピクリと身を縮める。
「何をするの?」
「良いから、眼を閉じるんだ」
強い口調で言われ、香花は仕方なく眼を閉じた。痛いほどの静寂があり、香花はきつく眼を瞑る。
やがて、香花の額に温かなものがほんの一瞬、触れた。それは、蝶の羽根がかすめるような軽い口づけだった。
次いで大きな手のひらがくしゃくしゃと香花の髪を撫で回す。
「―騒馬」
〝騒馬〟というのは、光王が香花に親しみを込めて付けた呼び名だ。もっとも、香花自身は、あまり歓迎できない愛称である。
「もう、光王ったら、また、その名前で呼ぶのね。私があれほど呼ばないでって―」
言いかけた香花の身体がふわりと抱き寄せられた。
自分を拘束していた光王の腕という甘い檻から漸く解放され、ホッとしていたのも束の間。
「香花、眼を閉じろ」
突然命じられ、香花はピクリと身を縮める。
「何をするの?」
「良いから、眼を閉じるんだ」
強い口調で言われ、香花は仕方なく眼を閉じた。痛いほどの静寂があり、香花はきつく眼を瞑る。
やがて、香花の額に温かなものがほんの一瞬、触れた。それは、蝶の羽根がかすめるような軽い口づけだった。
次いで大きな手のひらがくしゃくしゃと香花の髪を撫で回す。
「―騒馬」
〝騒馬〟というのは、光王が香花に親しみを込めて付けた呼び名だ。もっとも、香花自身は、あまり歓迎できない愛称である。
「もう、光王ったら、また、その名前で呼ぶのね。私があれほど呼ばないでって―」
言いかけた香花の身体がふわりと抱き寄せられた。