月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
香花が話したのはもとより薔薇を見たことだけではなく、県監の奥方らしい上品な老婦人のことも含まれていた。
「あの婆さん―」
言いかけた光王に、香花は笑った。
「光王、〝婆さん〟は、ないでしょ。県監さまの奥さまよ」
しかし、光王は笑わなかった。
「呼び方なんざ、どうでも良いさ。とにかく、あの県監の奥方は色々といわくのある女らしいぞ?」
香花は小首を傾げる。
「そうなの? でも、私にはそんな風には見えなかったけど。流石に人望のある県監さまを陰から支えている奥方さまといった感じに見えたわ」
それは嘘ではない。白髪を上品に結い上げ、薄紫のチョゴリと濃紺のチマを纏ったその姿にはほどよい威厳と穏やかさが丁度良い感じで備わっていた。杖をついて脚が少し不自由なようではあったけれど、いささかも彼の老婦人の上品さを損なうものではなかった。
「あの婆さん―」
言いかけた光王に、香花は笑った。
「光王、〝婆さん〟は、ないでしょ。県監さまの奥さまよ」
しかし、光王は笑わなかった。
「呼び方なんざ、どうでも良いさ。とにかく、あの県監の奥方は色々といわくのある女らしいぞ?」
香花は小首を傾げる。
「そうなの? でも、私にはそんな風には見えなかったけど。流石に人望のある県監さまを陰から支えている奥方さまといった感じに見えたわ」
それは嘘ではない。白髪を上品に結い上げ、薄紫のチョゴリと濃紺のチマを纏ったその姿にはほどよい威厳と穏やかさが丁度良い感じで備わっていた。杖をついて脚が少し不自由なようではあったけれど、いささかも彼の老婦人の上品さを損なうものではなかった。