月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
「まっ、ある意味では、香花の言うことも当たってはいるんだろうがな」
この男には珍しく、曖昧な言い方をしたと思ったら、光王は小さな溜息をついた。
「まあ、少なくとも昔は確かにそうだったんだろう。多忙な県監を内助の功で支える賢夫人だと有名だったようだな」
〝昔は〟と過去を示しているところに、どうやら彼の言いたいことがあるらしい。
「あなたらしくもないわよ、光王。あの方がどうしたっていうのよ?」
光王は少しの逡巡を見せ、思い切ったようにひと息に言った。
「二年前、県監夫妻の掌中の玉だった一人娘が亡くなった。死因は心臓発作で、まだ十八歳だったそうだ」
「そう―だったの」
あの老婦人の穏やかに細められた眼許がありありと甦る。あの小柄な女性にそんな哀しい過去があったというのか。
しかし、その娘の死と夫人のいわくというのは何の関係があるのだろう。
この男には珍しく、曖昧な言い方をしたと思ったら、光王は小さな溜息をついた。
「まあ、少なくとも昔は確かにそうだったんだろう。多忙な県監を内助の功で支える賢夫人だと有名だったようだな」
〝昔は〟と過去を示しているところに、どうやら彼の言いたいことがあるらしい。
「あなたらしくもないわよ、光王。あの方がどうしたっていうのよ?」
光王は少しの逡巡を見せ、思い切ったようにひと息に言った。
「二年前、県監夫妻の掌中の玉だった一人娘が亡くなった。死因は心臓発作で、まだ十八歳だったそうだ」
「そう―だったの」
あの老婦人の穏やかに細められた眼許がありありと甦る。あの小柄な女性にそんな哀しい過去があったというのか。
しかし、その娘の死と夫人のいわくというのは何の関係があるのだろう。