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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 香花の思惑を見透かしたかのように、光王が言った。
「愛娘の死以来、奥方は少しここがイカレちまったらしい」
 光王が自分の頭を人さし指でチョンチョンとつつく。
「馬鹿なことを言うものではないわ。だって、奥方さまは狂っているようには少しも見えなかったもの」
 あのときの状況を順を追って思い出してみても、特に変わったことはなかった。奥方の言動におかしな点はなかったと思う。
―確かにあなたの言うとおりだわ。折角咲いている花を無闇に手折るものではないわね。判りました、もう無理にとは申しません。
―また、おいでなさい。そなたのように花を愛でる者たちのために、我が屋敷の門はいつでも開けてあるのですから。
 言葉にもすべて一貫性があり、格別、違和感を憶えてはいない。むしろ、花は手折らない方が良いのだと訴えた香花の意をすぐに酌み、理解を示してくれたところなどは流石に慈悲深いことで知られる県監と長年連れ添った妻ならではと思えたのだが。

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