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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 ソンジュはそう思うと、いたたまれない。
 亡きお嬢さまのためにも、何とかして奥さまに真実を認めて頂き、哀しみを乗り越えて頂きたい。そして、以前のように使用人だけでなく村の人々からも慕われる奥さまに戻って頂きたい。
 今の奥さまをお嬢さまがご覧になったら、さぞ哀しまれるに違いない。
 だが、ソンジュは哀しいかな使用人の身だ。自分から出すぎたふるまいをすることは許されない。ただ、主人の命ずるがままに行動するしかない。
「隣のソロン村に住む余香花という名の娘のようにございます」
「余香花」
 理蓮が呟き、満足げに頷いた。
「素花と名が一字違いで似ておるというのも、これも浅からぬ縁であろう。して、香花の家族は?」
 ソンジュは今日一日、近隣の村々を歩き回り、香花らしい娘がどこに住んでいるか、また、どのような暮らしをしているかを調べて回ってきたのだ。

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