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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

「そのような話はこの際、どうでも良い」
 理蓮はやや不愉快そうに言い、再び思案げな顔になる。ややあって、思い出したように口にした。
「その兄以外に、家族は」
「おりません」
 意外な言葉に、理蓮は眼を瞠った。
「両親はいかがした?」
「兄と名乗る男以外に、香花に家族はおりません。奥さま、香花という娘は元々、この地に棲まう者はではございませぬ。一年ほど前、都から兄と共に流れてきて、ソロン村に住みついたようでございます」
「なるほど、他所者か」
 理蓮は頷くと、また考え込む。
「近隣での評判はどうだ?」
「概ね香花を悪く申す者はおりません。兄光王と香花は仲睦まじく、光王はまるで恋女房を外の風に当てたくないと言わんばかりに香花を大切にしていると皆が口を揃えて申しておりました」

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