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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 理蓮は徳義から少し距離を置いた、やや下方に座る。
 改めて妻の顔を見、更に部屋をひと眺めした徳義が小首を傾げた。 
 部屋中に、眼にも鮮やかなチマチョゴリが何着も無造作にひろげられているのだ。
 良人の視線に気付いたのか、理蓮は嬉しげに微笑んだ。
「夫人、近頃、やけに愉しそうだな」
 問いつめても逆効果だと判っているので、徳義もまた物柔らかな笑みを浮かべて応じる。
「旦那(ヨン)さま(ガン)、これをご覧下さいませ。どれも美しい色合いでよく仕上がっておりますでしょう?」
 徳義は笑いながら訊ねた。
「確かに美しいが、そなたには少し派手すぎるのではないか?」
 と、理蓮がホホと華やかな笑い声を上げる。
 徳義は一瞬、ハッと妻を見た。理蓮がこのように明るく笑うのは、二年前、素花が亡くなってからこれまで一度もなかったのだ。

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