月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第15章 不幸な母
もとより素花の美しさ、賢さは都まで轟いていたゆえ、向こうは最初から大乗り気で縁談は順調に進んでいたのだ。婚礼支度もそろそろ始まっていた矢先、素花を哀しい不幸が襲った。まだ見ぬ許婚に嫁ぐ晴れの日を夢見ていた娘は、ついにその日を迎えることなく十八歳で逝った―。
相手の若者は二十二歳で、司(サ)憲(ホン)府(プ)に勤務すする官吏であった。浮ついた女性関係の噂も一切なく、真面目な良き人柄だという評判であった。彼の父はまた兵曹の次官であり、徳義、理蓮ともに願ってもない良縁だと歓んでいたのだ。自分の出世には欲のない徳義も、掌中の玉と愛でる一人娘の聟には少しでも良い家柄の出世できそうな男を望んだ。
時折、相手の姿絵を眺めては切なげな吐息を洩らす娘を見て、徳義は
―そのように始終、眺めてばかりいては穴が空いてしまおう。どうせ婚礼が済めば、飽きるほど互いに顔を見られるのだ。それまで愉しみには取っておいて、姿絵は大切にしまっておいてはどうかな。
と、半ば本心から、半ばからかって李ってった。
相手の若者は二十二歳で、司(サ)憲(ホン)府(プ)に勤務すする官吏であった。浮ついた女性関係の噂も一切なく、真面目な良き人柄だという評判であった。彼の父はまた兵曹の次官であり、徳義、理蓮ともに願ってもない良縁だと歓んでいたのだ。自分の出世には欲のない徳義も、掌中の玉と愛でる一人娘の聟には少しでも良い家柄の出世できそうな男を望んだ。
時折、相手の姿絵を眺めては切なげな吐息を洩らす娘を見て、徳義は
―そのように始終、眺めてばかりいては穴が空いてしまおう。どうせ婚礼が済めば、飽きるほど互いに顔を見られるのだ。それまで愉しみには取っておいて、姿絵は大切にしまっておいてはどうかな。
と、半ば本心から、半ばからかって李ってった。