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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第15章 不幸な母

 理蓮の双眸が一杯に見開かれる。見る間に、その表情が凍りついた。
「あなた、そんなはずがありませんわ。素花が、私たちの娘が死んだだなんて。そんな馬鹿なことがあるはずがない」
 理蓮が両手で頭を抱え、その場に蹲った。
「ああ、どうしましょう。そんな馬鹿なことが」
 うわ事のように繰り返す理蓮をしばらく眺めていた徳義は、小さく首を振り、妻のか細い身体を抱きしめた。
 随分と痩せた―。
 徳義は理蓮の儚げな身体を抱き寄せながら、熱いものが込み上げてくるのを必死に堪えた。

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