月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
夢と現の狭間
香花は、そっと視線を巡らせて周囲の様子を窺った。暦は九月の下旬を迎え、秋の気配はよりいっそう濃くなっている。むろん、まだまだ昼間は厳しい残暑だが、朝夕に吹く風はひんやりとして、本格的な秋も近いことを告げている。
光王と約束した手前、香花は隣村のユン家まで行くことはなかった。この半月間、何度かユン家の薔薇を見たいという衝動に駆られたものの、結局、行かずじまいでいたのだった。あの上品な老婦人が気狂いだとは俄には信じがたいが、あのときの光王の真剣さは、あながち一笑に付してしまうことはできないものがあったからだ。
だが、やはり誘惑には勝てなかった。香花はその朝、ついに家をこっそりと抜け出し、隣村まで出かけた。もちろん、堂々と県監の屋敷にゆく度胸はない。隣村へと続く小道をゆっくりと辿りながら、その日幾度めになるか判らない溜息を洩らす。
香花は、そっと視線を巡らせて周囲の様子を窺った。暦は九月の下旬を迎え、秋の気配はよりいっそう濃くなっている。むろん、まだまだ昼間は厳しい残暑だが、朝夕に吹く風はひんやりとして、本格的な秋も近いことを告げている。
光王と約束した手前、香花は隣村のユン家まで行くことはなかった。この半月間、何度かユン家の薔薇を見たいという衝動に駆られたものの、結局、行かずじまいでいたのだった。あの上品な老婦人が気狂いだとは俄には信じがたいが、あのときの光王の真剣さは、あながち一笑に付してしまうことはできないものがあったからだ。
だが、やはり誘惑には勝てなかった。香花はその朝、ついに家をこっそりと抜け出し、隣村まで出かけた。もちろん、堂々と県監の屋敷にゆく度胸はない。隣村へと続く小道をゆっくりと辿りながら、その日幾度めになるか判らない溜息を洩らす。