月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
「大丈夫ですか? 少しは動けますか?」
その時、初めて顔をうつむけていた女性がゆるゆると顔を上げた。
あっと、思わず声を上げそうになるのを、香花は寸でのところで呑み込む。
何と、腰を痛めて難儀していたのは、隣村の県監の奥方―ユン夫人であったのだ。道理で、お付きの女中の顔に見憶えがあると思ったはずである。この女中は半月前、香花が県監の屋敷の薔薇を門前から覗き見ていた時、夫人に呼ばれて出てきたあの女だった。
「少し動いただけでも、腰に烈しい痛みが走って―」
消え入りそうな声で訴える夫人を見、香花は目まぐるしく思考を回転させる。
取るべき方法は二つある。香花はお伴の若い女中に告げた。
「方法は二つあります。一つは、あなたがお屋敷に戻って、誰か人を呼んでくるというものです、奥さまをお運びするのには人手が要りますから。その間、奥さまには、私がついていますので、できるだけ早く戻ってきて下さい」
その時、初めて顔をうつむけていた女性がゆるゆると顔を上げた。
あっと、思わず声を上げそうになるのを、香花は寸でのところで呑み込む。
何と、腰を痛めて難儀していたのは、隣村の県監の奥方―ユン夫人であったのだ。道理で、お付きの女中の顔に見憶えがあると思ったはずである。この女中は半月前、香花が県監の屋敷の薔薇を門前から覗き見ていた時、夫人に呼ばれて出てきたあの女だった。
「少し動いただけでも、腰に烈しい痛みが走って―」
消え入りそうな声で訴える夫人を見、香花は目まぐるしく思考を回転させる。
取るべき方法は二つある。香花はお伴の若い女中に告げた。
「方法は二つあります。一つは、あなたがお屋敷に戻って、誰か人を呼んでくるというものです、奥さまをお運びするのには人手が要りますから。その間、奥さまには、私がついていますので、できるだけ早く戻ってきて下さい」