テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第16章 夢と現の狭間

「奥さまをお運びするのなら、輿の方がよろしいでしょうか?」
 機転を利かせた女中が提案する。香花よりは幾つか年上だろうが、なかなかよく気のつく女中のようだ。
「二つめは、私が奥さまを背負ってお運びすることです」
「えっ、それは幾ら何でも無理でしょう」
 女中が眼をまたたかせた。
 香花が笑う。
「大丈夫ですよ。私はこう見えても、力だけはあります」
 香花は少し思案し、夫人に訊ねた。
「奥さま、いかが致しましょう」
 夫人は、ひっきりなしに襲ってくる痛みどころで、それどころではなさそうだ。
「早く屋敷に帰りたいわ」
 呟くように言うのへ、香花は頷いた。
「判りました。それでは、私がお屋敷までお連れします」
 言うが早いか、しゃがみ込んだ。
「少し手を貸して頂けますか?」
 女中が理蓮を辛うじて支えて立たせ、何とか理連は香花の背におぶわれる形になった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ