月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
〝よいしょ〟と小さな声でかけ声をかけ、香花は危なげない脚取りで立ち上がる。先に歩き出した香花を慌てて茫然と見ていた女中が追いかけてきた。
「愕きました」
心底びっくりした顔で言う女中に、香花は微笑む。いつしか二人は並びながら歩いていた。
「正直申し上げて、本当にお嬢さま(アツシー)が奥さまを背負って屋敷まで辿り着けるとは思えなかったもので」
「お嬢さまだなんて、止して下さい。私の名は香花。ただの香花と呼ん下さいな」
気さくに言うと、若い女中がまた眼をパチパチさせる。
「私は賤民ですから。それに、お嬢さまは村娘のなりをなさっているけれど、そんじょそこらの薄汚い農民の娘ではないでしょう? 私は文字もろくに読めないけれど、長年、お屋敷に奉公して色んな人を見てますから、人を見る眼は少しはあるんです」
「愕きました」
心底びっくりした顔で言う女中に、香花は微笑む。いつしか二人は並びながら歩いていた。
「正直申し上げて、本当にお嬢さま(アツシー)が奥さまを背負って屋敷まで辿り着けるとは思えなかったもので」
「お嬢さまだなんて、止して下さい。私の名は香花。ただの香花と呼ん下さいな」
気さくに言うと、若い女中がまた眼をパチパチさせる。
「私は賤民ですから。それに、お嬢さまは村娘のなりをなさっているけれど、そんじょそこらの薄汚い農民の娘ではないでしょう? 私は文字もろくに読めないけれど、長年、お屋敷に奉公して色んな人を見てますから、人を見る眼は少しはあるんです」