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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第16章 夢と現の狭間

「お加減はいかがですか? 腰の方はもう大丈夫なのですか?」
 理蓮は微笑んだ。
「あなたにまでとんだご心配をおかけしてしまいましたね。もう、いつものことなのですよ。癖になっているのでしょうか、少し長く歩いたり、無理をすると、動けなくなるくらい腰に激痛が走るようになってしまって」
「もう痛みはないのですか」
 重ねて問う香花を見て、理蓮は嬉しげに頷く。
「いつも服用している痛み止めを飲めば、一刻もすれば嘘のように痛みは治まります」
 そこに、ソンジュが再び帰ってきた。両手に小さな卓を恭しく捧げている。その上に掛かっている色鮮やかなピンクの布を外すと、現れたのは眼にも綺麗な花の形をした干菓子と、急須、湯呑みだった。
 ソンジュは小卓を床に置き、手早く運んできた急須から一対の湯呑みに茶を注ぐ。
「どうぞ」
 理蓮から勧められ、香花は素直に湯呑みを手にした。ひと口含むと、何とも甘ずっぱいような香りが口中にひろがる。

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