テキストサイズ

月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第16章 夢と現の狭間

 香花があまりのなりゆきに圧倒される。
 理蓮が探るような視線を向けてきた。
「この間、初めて逢ったときも思ったのだけれど、あなたはもしかして、両班のご息女ではないのかしら」
 香花は息を呑んだ。存外に理蓮が鋭いことに愕いたのである。
「何らかの事情がおありで、漢陽から離れたこの地までおいでになったのでしょう?」
 一瞬、香花の顔が強ばったのを見て取り、理蓮は安心させるように微笑みかけてきた。
「ご心配なさらないで。別に、あなたの身許をあれこれ詮索しようというつもりはありません。あなたは自分で村娘のようにふるまっているつもりのようだけれど、産まれながらに持った気品は、たとえどのような暮らしにあっても、けして損なわれものではないのです。真の宝玉が砂に紛れても、けして輝きを喪わないようにね。あなたをひとめ見て、私はすぐに、あなたが村の娘ではないと判りました」
 こんな場合、自分の方から迂闊に喋ると、かえって墓穴を掘る危険性がある。この夫人は穏やかな見かけによらず、切れ者でしたたかな一面を持ち合わせているようだ。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ