
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
「慕っているの?」
再度問われ、香花は唇を噛みしめた。
「奥さまには関係のないことです」
香花がやっとの想いで応える。
「その男(ひと)のことを好きなのね」
なおも沈黙を守り続ける。
理蓮がにっこりと笑った。どこか少女めいたあどけなささえ漂わせる微笑だが、その口から出たのは、微笑ましいどころではなかった。
「別に構いませんよ。あなたがその男を慕っていようと、私には確かに拘わりのないことですものね。でも、こう言えば、どうかしら。あなた次第では、その男の身の立つのようして上げても良いと私は考えているのだけれど」
刹那、弾かれたように声花が顔を上げた。
「それは、一体、どういう―」
眼前の理蓮は相変わらず淡い微笑を湛えている。しかし、その細められた双眸は、およそ感情を感じさせない。
押し潰されそうな沈黙の後、理蓮が口を開いた。香花の身体に緊張が満ちてゆく。この狡猾な夫人は、沈黙さえ自分に有効に働くように使えるのではないかと、つい勘繰りたくなる。
再度問われ、香花は唇を噛みしめた。
「奥さまには関係のないことです」
香花がやっとの想いで応える。
「その男(ひと)のことを好きなのね」
なおも沈黙を守り続ける。
理蓮がにっこりと笑った。どこか少女めいたあどけなささえ漂わせる微笑だが、その口から出たのは、微笑ましいどころではなかった。
「別に構いませんよ。あなたがその男を慕っていようと、私には確かに拘わりのないことですものね。でも、こう言えば、どうかしら。あなた次第では、その男の身の立つのようして上げても良いと私は考えているのだけれど」
刹那、弾かれたように声花が顔を上げた。
「それは、一体、どういう―」
眼前の理蓮は相変わらず淡い微笑を湛えている。しかし、その細められた双眸は、およそ感情を感じさせない。
押し潰されそうな沈黙の後、理蓮が口を開いた。香花の身体に緊張が満ちてゆく。この狡猾な夫人は、沈黙さえ自分に有効に働くように使えるのではないかと、つい勘繰りたくなる。
