
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
「あなたのお兄さんは、小間物の行商をしているのでしょう。私なら、お兄さんが町にちゃんとした店舗を持つように助力することくらいはできますよ?」
「―」
依然として沈黙を通しながらも、その意外なひと言は香花の心をくすぐった。
光王にちゃんとしたお店を持たせて貰える―、それは何という誘惑に満ちた響きだろう。
今の光王は最早、義賊でも暗殺者でもない。ただの光王だ。早朝から陽が落ちるまで脚を棒にして町中を売り歩いても、稼ぎはたかが知れている。もし、この夫人の言葉が本当なら―。
無意識の中に香花が身を乗り出したかけた時、理蓮の声で現実に引き戻される。
「その代わりと言っては何だけれど、私と取り引きをして欲しいのです」
香花はハッとして眼の前のしたたかな女人を見た。鋭い輝きを帯びた視線が射貫くように香花を見据えている。
「あなたに私の養女になって欲しいのです」
えっと、香花は一瞬、身を退いた。
「―」
依然として沈黙を通しながらも、その意外なひと言は香花の心をくすぐった。
光王にちゃんとしたお店を持たせて貰える―、それは何という誘惑に満ちた響きだろう。
今の光王は最早、義賊でも暗殺者でもない。ただの光王だ。早朝から陽が落ちるまで脚を棒にして町中を売り歩いても、稼ぎはたかが知れている。もし、この夫人の言葉が本当なら―。
無意識の中に香花が身を乗り出したかけた時、理蓮の声で現実に引き戻される。
「その代わりと言っては何だけれど、私と取り引きをして欲しいのです」
香花はハッとして眼の前のしたたかな女人を見た。鋭い輝きを帯びた視線が射貫くように香花を見据えている。
「あなたに私の養女になって欲しいのです」
えっと、香花は一瞬、身を退いた。
