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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第16章 夢と現の狭間

 幼い子に言い聞かせるように言うと、これは香花に向けて言った。
「家人から話は聞きました。妻の窮地を助けて頂いた上に、長い間、お引き止めしていたようで、申し訳ない。私も帰ってきたゆえ、お引き取り頂いても構いませんよ」
 一介の小娘にも丁寧な物言いであったのは、やはり、徳義もまた、この娘の拝礼―立ち居振る舞いがただの田舎娘のものではない、つまり両班に属する令嬢だと一瞬で見抜いたからであった。
「それでは、私はこれで失礼致します」
 香花はこのときが好機と急いで立ち上がった。県監夫妻に深々と頭を下げる。ソンジュが帰りの道案内に立った。
「待っ―」」
 引き止めようとする理蓮の肩に、徳義がそっと手を置いた。
「止めなさい」
「あなた」
 徳義を見上げた理蓮の両眼はも玩具を途中で取り上げられてしまった幼児のようだ。

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