月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第16章 夢と現の狭間
全身で不満を訴える妻を、徳義は優しく抱き寄せ、その薄い背中を宥めるように撫でた。
「あの娘は素花ではない。良いか、先日も申したように、私たちの娘は死んだのだ。幾ら嘆こうと、取り戻したくとも、あの娘を取り戻すことはできないのだ」
「あなた―」
理蓮が声を上げて泣いた。文字どおり、幼子のように身を震わせて泣きじゃくる妻を、徳義はいつまでも抱きしめていた。
その日、徳義は妻のここのとろこの変化が何によるものかとを知った。理蓮はここ半月ばかり、めざましい回復ぶりを見せている。もう放心したように庭の薔薇を眺めていることもなくなったし、誰もいない部屋から話し声がすることもなくなった。
その代わりに、理蓮は毎日、出入りの仕立屋や小間物屋を屋敷に呼び寄せては、飽きもせず新しい服を注文し、宝飾品を次々と買い求めている。これまでの徳義なら、妻のそのような贅沢をすぐに窘めるいただろうが、今は買い物で妻の気が紛れるのならと大目に見ていたのだ。
「あの娘は素花ではない。良いか、先日も申したように、私たちの娘は死んだのだ。幾ら嘆こうと、取り戻したくとも、あの娘を取り戻すことはできないのだ」
「あなた―」
理蓮が声を上げて泣いた。文字どおり、幼子のように身を震わせて泣きじゃくる妻を、徳義はいつまでも抱きしめていた。
その日、徳義は妻のここのとろこの変化が何によるものかとを知った。理蓮はここ半月ばかり、めざましい回復ぶりを見せている。もう放心したように庭の薔薇を眺めていることもなくなったし、誰もいない部屋から話し声がすることもなくなった。
その代わりに、理蓮は毎日、出入りの仕立屋や小間物屋を屋敷に呼び寄せては、飽きもせず新しい服を注文し、宝飾品を次々と買い求めている。これまでの徳義なら、妻のそのような贅沢をすぐに窘めるいただろうが、今は買い物で妻の気が紛れるのならと大目に見ていたのだ。