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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 でも、これって―。
 そこまで考えて、香花はハッとした。道のゆく手を塞いだ大男に対して、背後から追っ手きたのは―。
 慌てて振り返ると、いつのまにそこにいたのか、若い男がこれまたゆく手を遮るかのようにヌッと突っ立っている。こちらも大男と変わらない格好をしている。どちらも怖ろしいほど無表情だが、獣が追いつめた小動物を逃すまいとするように威嚇の体勢を取っている。
 香花は記憶の糸を懸命に手繰り寄せた。大男は知らない貌だが、背後のひょろ長い男は、どこかで確かに見たことがあるはずだ。
 そう、あれは確か。
 記憶の底から漸く浮かんできた顔と眼前の男の顔が一致した時、背後から分厚い手のひらで口を覆われた。
「う―」
 香花は渾身の力でもがき、抗った。しかし、哀しいかな、大の男にはかなわない。
―光王、光王、助けて!!
 香花は心の中で愛しい男に助けを求めたが、ここから遠く離れた町にいるはずの光王にその声が届くはずもなかった。

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