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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 香花が何者たちかによって連れ去られたのと同じ頃、光王は町外れの酒場にいた。大昔(当人は大昔ではなく、ほんのちょっと昔だと言う)に妓生をしていたという初老の女がやっている場末の酒場だ。都にもこれと似たような酒場は幾つもあった。
 戸外に簡素な作りの小卓と椅子を並べ、客はそこで酒肴をつつくという仕組みになっている。昼間は酒だけでなく、飯も食べさせてくれるので、働く男たちにとっては、こういう店はありがたいのである。
 丁度、ひと仕事終えたのが昼時だったゆえ、馴染みのこの店に来たのだ。大抵、光王はここで昼飯を食べる。言わば、常連である。
「光王、妹とはその後、どうなってるんだい?」
 注文した丼飯を運んできた女将が意味ありげな流し目をくれる。
 この女将は気っ風も気前も良いが、困るのは、年甲斐もなく(?)、光王に秋波を送ってよこすことだ。かれこれもう六十近いというのに、元気すぎて困る婆さんである。

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