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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

「―妹?」
 素っ頓狂な声を上げかけ、慌てて口を押さえる。
「あ、ああ。香花のことか」
 この店には、香花も何度か連れてきたことがある。だから、女将も香花を知っているのだ。
「あんたみたいな浮ついた男には勿体ないほど、真面目そうな娘じゃないか。色男ぶるのも良いけど、初な娘を引っかけるのもたいがいにしなよ。あんたみたいなすれた男には、所詮、あたしのような玄人女がお似合いだよ」
 と、満更、戯れ言でなく本気で言っているのが少々怖い。
「何を惚けたことを言ってるんだ。妹相手に、引っかけるも何もないだろうに」
 光王が軽く受け流すと、女将がにんまりと笑う。
「他の連中は騙せても、このあたしが騙せるとお思いかえ? こう見えても、この世界で五十年生きてきたんだ。真実を見極める眼はちゃんと持ってるさ」
 真実を見極められる眼を持つというのなら、願わくば、自分の年齢を自覚して、息子どころか孫のような歳の男に色目を使うのは止めて欲しいものだ―。と言いたいところだが、止めておく。

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