無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

　光王が訝しげに振り返った。
「どうした？　何か忘れ物でもあるのか」
　香花は小さく首を振った。
「このまま行ってしまっても良いのかしら」
「何を馬鹿なことを言ってるんだ」
　光王が焦れたように叫んだ。
　香花の瞼に、理蓮の泣き顔が甦る。
―素花だとて、生きていれば、そなたのように恋を経験し、慕う殿御の許に嫁いで幸せになれたものを。
　あの時、理蓮は確かに泣いていた。
「それじゃあ、お前はここに残って、あの女の娘とやらにでもなるっていうのか？　それだけの覚悟ができてるとでも言うのか？」
　烈しい語調で迫る光王に、香花は力なく首を振る。
「お前は本当に何とがつくくらいのお人好しだな。ここまで酷い目に遭わされたってのに、まだ、あの女のことを考えてやるのか」
　光王が呆れたように言い、肩を竦める。