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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 彼はひとしきり静謐な瞳で香花を眺め降ろしていたが、やがて静かな声音で言った。
「だがな、中途半端な同情は、かえってあの女のためにはならない。お前がここにいても、あの奥方に何もしてやれない。むしろ、あの女は過去の亡霊から解き放たれることが必要だ」
「過去の亡霊―」
 香花の涙に曇った瞳を覗き込み、光王が力強く頷いた。
「そうだ、奥方はお前の上に死んだ娘を重ねて見ている。娘が死んだという事実を認めたくないために、身代わりを求めているんだ。身代わりが側にいれば、奥方はいつまでも娘が生きていた頃と同じで、今も状況は何ら変わりないと自分を騙しながら生きてゆけるからな。でも、それが真実、奥方のためになると思うか?」
 その問いに、香花は首を振ることで応えた。
 香花の手を握る光王の手に力がこもる。
「そう思うなら、今はここを離れた方が良い。お前のためにも、あの奥方のためにもな」

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