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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 何も言わない良人に、理蓮は笑みを浮かべたまま続ける。
「だって、私にはもう、あなたしかいないんですもの。あの娘―素花は二度と私の許には帰ってこないから、もし、あなたが無理をなさって倒れておしまいになったら、私は今度こそ本当に一人ぼっちになってしまいます」
 その言葉に、徳義の細い眼が見開かれた。
「理蓮、そなた―」
 妻が漸く娘の死を受け入れたことに、徳義は軽い衝撃を受けていた。あれほど頑なに娘の死を認めまいとしてきた妻がやっと一つの哀しみを乗り越えたのだ。
―素花、母上(オモニ)は今、大きな試練を乗り越えた。
 徳義は込み上げる涙を堪え、亡き娘に語りかける。
「だから、あなた、お身体を大切になさって下さい。私のためにも」
 囁くように言った理蓮は、右脚が不自由なため、椅子に座っている。徳義は背後からその両肩にそっと手を置いた。

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