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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

「ああ、そうするとしよう」
 深い声音が聞こえてきたかと思うと、次いで、眼の前にスと差し出されたのは一輪の花。
「旦那さま、これは何の花でしょう? 薔薇でございますか?」
 やや濃いめのピンクは薄い花びらが幾重にも重なっていて、まるで可憐な少女がピンク色のチマを纏っているようだ。一見、薔薇にも八重桜にも見える不思議な形状をしている。恐らく、突然変異で全く変わった形の花が偶然咲いたのだろう。
「新しい花を見つけたよ。これまで見たこともない花だ。実は今朝、ここを通りがかった時、ふと変わった形の花が一つだけ咲いているのを眼にしたのだ。桜にも見えるが、薔薇の樹に咲いたのだから、間違いなく薔薇であろう」
 徳義の言葉に、理蓮は顔をパッと輝かせる。
「あなた、この花を挿し木して、もっとたくさん増やして咲かせましょう。―この花を見ていると、何だか素花を思い出しますわ」
 徳義もまた頷く。
「ああ、私も初めてこれを見た瞬間、何故か素花の笑顔を思い出した。夫人、この花に素花の名前を付けよう」

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