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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第17章 夢の終わり

 振り仰げば、空はいつもそこにある。
 香花は、どこまでも涯なく続く蒼穹を飽きもせず眺め続ける。
「―騒馬、おい、騒馬!」
 耳許でいきなり怒鳴られ、香花は飛び上がった。
「耳許で大きな声を出さないでよ」
「いつもお前が俺にやってることだろうが」
 光王が軽く肩を竦めながら言う。どうも皮肉を言うときの彼の癖らしい。
「ねえ、その騒馬って呼ぶのは止めて欲しいって、一体何度頼んだら判って貰えるのかしら」
 香花が光王を睨むと、光王はいっかな懲りる風もなく平然と言う。
「だって、騒馬は騒馬だろ」
 県監の妻に突如として拉致されるという事件から、ひと月が経った。ひと月前の夜、助けにきた光王と共に理蓮の手を逃れてからというもの、最初はいつまた連れ去られるかと怯えて暮らしていたものの、追っ手はついに来なかった。

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