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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第3章 陰謀

 薄汚れた若い職人ふうの男たちは、相手が若い女と見て、好色そうな眼で舌なめずりするように香花を眺め回していたが、流石に両班の娘に無体はできないと思ったのか、諦めて去っていった。
 もっとも、香花自身は彼らの淫猥な視線や下卑た考えは微塵も感じてはいない。威嚇するように行く手に立ち塞がっていた男たちが消えてくれて、胸を撫で下ろし、再び気を取り直して歩き始める。
 ふと香花の視線が止まった。
 少し離れた前方に、小間物屋が店を出している。いかにも女性の歓びそうな細々とした品が店先に所狭しと並び、数人の女たちが今もたむろっていた。
 香花もまた吸い寄せられるようにその店に近づく。先客は皆、若い娘たちのようで、香花とさほど歳は離れていないようだ。彼女たちが何か言い、店主らしい若い男の声がそれに応じる。何か面白いことを言ったらしく、娘たちが嬌声を上げ、どっと笑う。
 どうやら彼女たちの目当ては品物ではなく、店の主のようだ。彼女たちは品物を見るよりも、店主と熱心に話しているし、店主に向けているまなざしには媚さえ含まれているようだ。あまりにもあからさまな媚態に、流石に奥手の香花ですらそれと感じたほどに。
 しかし、香花には、どれほどの男前の店主であろうと、興味はない。娘たちの嬌声をよそに、店主の方を見ようともしなかった。
 商っている品はどれもさほどに高価ではなく、いかにもこのような町中の露店で扱っていそうな安物だ。が、町の娘たちが自分の小遣いで買うには丁度だろう。それに、安くても、品は悪くない。
 香花はその中の一つを手に取った。ふと小首を傾げ、しげしげとそれを見つめる。

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