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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

 シニョンの双眸は、まるで実の孫娘を見るかのようにやわらかい。この老人は、香花の華美を好まぬ控えめさを好ましく思っているのだ。
「この鏡を兄さんに見せても良い?」
 香花が訊ねると、シニョンはわざとらしい渋面を拵え、香花を笑わせた。
「それはちょっとばかり困るな。光王は何もしなくても、あいつ自身が歩く看板のようなものだから。儂と光王が同じ品を同時に売れば、光王の方に若い娘どもが飛んでゆくのは眼に見えてる。―あいつは自分では地味な目立たない人間だと思い込んでいるが、とんでもない。その場にいるだけで、目立ちすぎるほど目立つ男だ」
「判った。なら、兄さんにこの鏡を見せるのは、もう少し後にするわ」
 香花が笑いながら応え、シニョンは〝そうしてくれると、ありがたい〟と笑顔を返した。
「ありがとう、お爺ちゃん」
 香花は立ち上がると、露店の前に回り込み、ペコリと頭を下げる。

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