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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第3章 陰謀

「いつもその調子で女の人を口説いているのですか? もっとも、あなたのこの商売には、それも必要な商法かもしれませんね」
 最大限の皮肉をこめてやると、プイとそっぽを向く。
 そんな香花を笑いながら見ていた男は軽く肩をすくめて見せる。
「冗談だよ、冗談。誰がお前みたいな小便臭い小娘を本気で相手にするってか。俺はこれでもお陰さまで相手に不自由するほど落ちぶれちゃいないんでね。どうせ寝るなら、ほら、こう出るところは出てる大人の女が好みなんだよ」
 と、嫌らしげな手つきで彼自身の胸を人さし指でつつく男を香花は呆れ果てて眺める。
「あの夜は暗くてよく判らなかったが、お前、まだ子どもじゃないか。幾らタラシと呼ばれる俺でも、子どもに手を出すほど鬼畜じゃねえよ。お子さまは俺の守備範囲外なの、範囲外」
 と、語尾を殊更強調するのも憎らしい。
「し、失礼な男ね。私は子どもじゃありません。もう、十四歳だもの。嫁入りの話だってあるくらいなのよ」
 と、これは多少はったりをかましておく。
 むろん、叔母がしょっ中、縁談を持ち込むのだから、嫁入り話があるというのも満更、全くの嘘ではないだろうと自分に言い訳をした。
「ホホウ、それはそれは。そこまでムキになるのなら、出るところがちゃんと出てるか、俺が直々に確かめてやっても良いぞ? お前、知ってるか? どうせ知らないだろうから教えてやるが、女の胸っていうのは、揉んでやると大きくなるんだ。お前が悩んでいるっていうのなら、俺が毎日、丹念に揉んでやって―」
「良い加減にして」
 香花はまくしたてる男に最後まで言わせず、手を振り上げた。

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