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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

「どうやら、布を売り歩く行商人のようだが、あんな調子で商売ができるのかね」
 男は呆れたように首を振っている。
 見慣れた―少なくとも香花にはその時、そう見えた―端整な顔が自分を見下ろしている。
「光王?」
 思わず叫んでしまった香花を、男が怪訝な表情で見返す。
 そこで、香花は、相手が光王ではないことに気付いた。何故、その時、自分がその男を光王だと思ってしまったのかは判らない。
 間近で見れば、男は光王とは全くの別人だ。第一、その男はどう見ても四十は超えているだろう。鐔広の帽子を被っていても、きちんと結い上げた髪の半ばは白くなっているのが見える。
 ただ、光王には及ばないものの、この男も香花から見れば、かなりの長身だし、面立ちもどこか光王に似通っているのは確かではあった。殊に切れ長の眼許から整った鼻梁辺りは、光王を彷彿とさせる。

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