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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

 香花は緩くかぶりを振った。
 いけない。光王のことばかり考えているから、こうして、ゆきずりの人を見ても、つい光王の面影を重ねてしまうのだ。
 香花に声をかけてくれた男は手を差し出し、香花はその手に掴まって、どうにか立ち上がった。
「どこのどなたさまかは存じませんが、ご親切にありがとうございます」
 丁寧に頭を下げると、男が形の良い眼を細めた。笑うと、眼尻に皺が寄るのも、この男が光王よりははるかに年配なのだと物語っている。
「いやいや、そのように改まって礼を言われるほどのことは何もしておりません。それよりも、お嬢さん、怪我はありませんでしたか」
 気遣われ、香花は微笑んだ。
「こう見えても、丈夫なだけが取り柄なんです」
 男は声を上げて笑った。
「これはこれは、なかなか面白いお嬢さんだ」

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