
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第18章 第5話【半月】・疑惑
笑いながら彼は、香花に何やら差し出してくる。
「大切なものなのでしょう、失くしては大変ですよ」
あっと、声を上げそうになり、香花は慌てて口を押さえる。蒼色の小さな巾着に入った鏡は、つい今し方、シニョン老人から貰ったばかりのものだ。
「ありがとうございます、本当に失くしたら、大変なところでした」
香花が再び鏡を袖にしまうのを眺めていた男がおもむろに口を開いた。
「ところで、お嬢さんは光王という若者をご存じのようですね」
あまりにさりげなく切り出されたため、最初、香花は相手が光王の名をはっきりと出したにも拘わらず、何の警戒心をも抱かなかったほどだった。
「―あなたは」
香花の視線が男の全身を捉える。落ち着いた群青の衣服をすっきりと着こなし、玉の垂れ下がった鐔広の帽子を被ったその様は、どう見ても身分の高い両班に違いない。
「大切なものなのでしょう、失くしては大変ですよ」
あっと、声を上げそうになり、香花は慌てて口を押さえる。蒼色の小さな巾着に入った鏡は、つい今し方、シニョン老人から貰ったばかりのものだ。
「ありがとうございます、本当に失くしたら、大変なところでした」
香花が再び鏡を袖にしまうのを眺めていた男がおもむろに口を開いた。
「ところで、お嬢さんは光王という若者をご存じのようですね」
あまりにさりげなく切り出されたため、最初、香花は相手が光王の名をはっきりと出したにも拘わらず、何の警戒心をも抱かなかったほどだった。
「―あなたは」
香花の視線が男の全身を捉える。落ち着いた群青の衣服をすっきりと着こなし、玉の垂れ下がった鐔広の帽子を被ったその様は、どう見ても身分の高い両班に違いない。
