
月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第18章 第5話【半月】・疑惑
―使道さまの客人なら、都でもそれなりの地位にある両班に違いないと町の皆で噂しているってことだ。
シニョンの科白が耳奥でこだまする。
光王の身許についてあれこれと訊ね回っている両班というのが、よもやこの男ではないのだろうか。
シニョンから聞いたばかりのその男の風貌が怖ろしいほど眼前の男と一致している。
「私」
香花は言いかけて、唇を噛みしめた。
相手を睨むように見据え、はっきりと言う。
「私は光王という人など、知りません」
それだけ言うと、軽く一礼し、逃げるように走り去った。
後に残された男の視線が背中に突き刺さってくるのを無言の中に感じたけれど、香花は走りに走った。早く、早く家に戻って、光王にこの男のことを知らせなければ。その一心で、走って村まで帰った。
が、もぬけの殻の家に戻って初めて、当の光王自身も町のどこかを歩き回って商いをしているのだと気付いた。
―私って、どこまで馬鹿なんだろう。
シニョンの科白が耳奥でこだまする。
光王の身許についてあれこれと訊ね回っている両班というのが、よもやこの男ではないのだろうか。
シニョンから聞いたばかりのその男の風貌が怖ろしいほど眼前の男と一致している。
「私」
香花は言いかけて、唇を噛みしめた。
相手を睨むように見据え、はっきりと言う。
「私は光王という人など、知りません」
それだけ言うと、軽く一礼し、逃げるように走り去った。
後に残された男の視線が背中に突き刺さってくるのを無言の中に感じたけれど、香花は走りに走った。早く、早く家に戻って、光王にこの男のことを知らせなければ。その一心で、走って村まで帰った。
が、もぬけの殻の家に戻って初めて、当の光王自身も町のどこかを歩き回って商いをしているのだと気付いた。
―私って、どこまで馬鹿なんだろう。
