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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第18章 第5話【半月】・疑惑

 二人の住まいは村外れの小高い丘の上にぽつんと一軒だけ離れて建っている。もっとも、この村自体が全戸数合わせても十数戸程度で、広範囲に渡って民家が点在しているのだ。ゆえに、普段から親しく行き来している隣家の朴家でも、歩けばかなりの距離になるといった有様である。
 なだらかな丘を貫く一本道の両側には草原がひろがっており、九月下旬の今、秋桜(コスモス)が秋の風に可憐に揺れている。
 香花は質素な佇まいの家が見えてきたところで立ち止まった。九月末とはいえ、まだまだ日中は残暑が厳しい。町から小走りに駆けるようにして帰ってきた香花は、全身うっすらと汗ばんでいる。
 こうしている今も、光王の身に何かあったらと考えただけで、泣きたくなってくる。
 今このときになって、香花は漸く光王の気持ちが判った。以前から、光王は真顔でよく言っていたものだ。

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