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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

 香花は腹を括った。この男は悪い人間ではない。はっきりとした根拠があるわけでもないのに、香花の中の何かがそう告げていた。さりとて、すべての事情を明かせるはずもない。ここは差し障りのない範囲で真実を話せば良いと判断する。
「確かにお察しのとおり、私と光王は実の兄妹などではありません。さる事情があり、漢陽にはいられなくなり、都から離れたこの村に移り住んだのです」
「そのさる事情とは?」
 踏み込んできた相手に対して、香花は初めて反撃に出た。
「ご無礼を申し上げますが、そちらからお訊ねになるばかりで、こちらから訊ねられないというのは不公平というものではないでしょうか。旦那(オル)さま(シン)は数日前から使道さまのお屋敷にご逗留なさっているとか聞き及んでおります。何故、あなたさまが光王の素姓についてあれこれと事細かにお訊ねになる必要があるのでしょう?」
 相手から視線を逸らさず、ひと息に言ってのける。

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