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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

「俺は最低だな。自分の苛立ちをお前にぶつけ、あまつさえ、お前の身体をその剥け口にしようとするなんて」
 光王は額に落ちた前髪をかき上げ、唾棄するように言った。
「済まない。今のことは忘れてくれ」
 光王は低い声で呟き、立ち上がった。部屋を大股で横切り、土間に降りたかと思うと、甕から瓢箪型の器に水を掬い、ひと息に飲み干す。喉を鳴らして水を飲み終え、腹立たしげに器を放った。
「光王、私のことは良いけれど、さっきの人―、何もあそこまで冷淡に突っぱねなくても良かったのではないの?」
 香花が控えめに言うのも、まだ興奮冷めやらぬ光王の耳には入っていないようだ。
「何であいつが今になって、俺の前に現れるんだ―。今更、親父面しやがって、あん畜生」
 そのひと言に、香花は凍りつく。
「光王、今、今、何て言ったの?」
 光王が寸でのところで踏みとどまってくれたことに、安堵する暇もなく、香花はただあまりの愕きに大きな眼をまたたかせた。

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