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月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】

第19章 訪問者

「本当は惚れた女には、格好良いところばかり見せたいのによ」
 香花の眼に大粒の涙が溢れた。
「馬鹿ね。女は大好きな男(ひと)なら、どんなところを見せられても、それで嫌いになったりはしないものよ。だって、格好良いところも、その反対のところも全部を含めて光王を好きになってしまったんだもの、私」
「そう、か。格好良いところも、その反対のところも全部含めて―か」
 光王がゆっくりとその言葉をなぞる。逞しい手が香花の小さな白い手にそっと重ねられた。香花は後ろから光王を抱きしめた格好のまま、優しい声音で言った。
「だから、躊躇わないで。私にだけは、あなたのどんなところも隠さないで見せて欲しいの」
 ―私は、どんなときだって、あなたの味方だから。
 分厚い背中に頬を押しつけて囁いた科白を、光王は黙って聞いていた。

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