月下にひらく華~切なさの向こう側~第6話【漢陽の春】
第19章 訪問者
やはり、予想したとおり、父親は家を再び訪ねてきたのだ。ここで、こうして再会できたのは、観音像の導きかもしれない―と、香花は本気で思った。
香花の想いが伝わったのかどうか、父親は背後を振り返った。
「そなたと出逢えたのも、観世音菩薩の功徳かもしれぬ」
香花は何げなしに訊ねた。
「何を祈ってらっしゃったのですか?」
父親はしばらく小さな石仏を無心に見つめていたかと思うと、小さくかぶりを振った。
「幾ら息子の大切な嫁の頼みでも、こればかりは教えられない。願い事を口にすると、ご利益がなくなるという話を聞いたことはないかね?」
香花が黙っていると、ややあって、彼は感情の窺えない瞳で香花を見た。
「息子を無情に棄てた父親がそなたをそう呼ぶのは、おかしいかな」
香花の想いが伝わったのかどうか、父親は背後を振り返った。
「そなたと出逢えたのも、観世音菩薩の功徳かもしれぬ」
香花は何げなしに訊ねた。
「何を祈ってらっしゃったのですか?」
父親はしばらく小さな石仏を無心に見つめていたかと思うと、小さくかぶりを振った。
「幾ら息子の大切な嫁の頼みでも、こればかりは教えられない。願い事を口にすると、ご利益がなくなるという話を聞いたことはないかね?」
香花が黙っていると、ややあって、彼は感情の窺えない瞳で香花を見た。
「息子を無情に棄てた父親がそなたをそう呼ぶのは、おかしいかな」